隣村に記憶を自慢する爺様がいます。
何十年も昔の出来事や人の会話を、つい先日の事の様に自信タップリと再現/披露します。
しかし記憶が正確か不正確かどうかは、他人では検証不可能です。
事実/真実は分りません。
記憶装置を大別すると…、
●パーマネント・メモリー:永久記憶装置…長期間にわたり情報を留めておける機能を持った記憶装置。
例えば:磁気ディスク、CD、映画フィルムなど。
古代文字を刻んだ石碑:ロゼッタストーンは何万年も情報を保持できる優れた永久記憶装置ですが…残念ながら文字を読める人がいません。
●ダイナミック・メモリー:一時的記憶装置…一秒の数千分の一秒程度の短時間だけ情報を蓄える記憶装置。書き込み/読み出しの動作速度が速いので、数値計算や画像処理には適している。パソコンの心臓部に多用されている。長期間、情報を保持するには、再読み出し〜再書き込みを繰り返す。またはグルグルとタライマワシに再生/複写を繰り返しても…長時間の記憶を保てます。ダイナミック・メモリーの欠点は、記憶喪失です。パソコンを使用中に突然停電になったらせっかく苦労して打ち込んだデータも
一瞬で消え失せます。ダイナミック・メモリーは自転車操業です、急に停止したら転倒します。停止前に、定期的にパーマネント・メモリーに複写(セーブ)しておくべきです。
最近は、デジタル機器が増えたので、ダビング可能回数は飛躍的に増えましたが、複写事故がゼロになった訳ではありません。

人間の脳細胞の記憶性能はパーマネントでしょうか、ダイナミックでしょうか?
私の脳細胞の記憶性能 (
忘却曲線 )は1時間後に50%、2時間後に25%、3時間後に12.5%、つまり、24時間後に残っている記憶情報量は、限りなくゼロに近づきます。
一週間前のランチに何を食したか…忘却の彼方…全く記憶がありません。
努力して、1時間毎に思い出して、確認/再書込み/多重ダビングしていれば、なんとか、片鱗は残せ続けられます…。多分、賞味期限(記憶半減期)は約1時間以下のダイナミック・メモリーの部類に属するのでしょう。
私に興味の無い情報分野(例:渋谷交差点ですれ違う女性群のファッション情報等)はもっと早く忘れ、記憶半減期は「数千分の1秒」以下です。典型的なダイナミック・メモリーです。
人間の体の細胞は入れ替わります。
新陳代謝です。毛も伸び、爪も伸び、皮膚も垢(あか)となり、勿論、内臓も脳も、新しい分子に刻々と交換されています。
赤子の頃から今まで、もう何回も何回も、数え切れないほど、入れ替わっています。一年前の貴女の身体の細胞の分子と、今の貴女の細胞の分子は全く違う物なのです。
聞いた話ですが、脳は毎日毎日、多数の細胞が死んでいるそうです。
それなのに、違う分子なのに、昔々の事を覚えています。
多分、脳の中でも、記憶情報を定期的に多重複写しているのでしょう。
ダビングテープが複数本、残っているのかも知れません。ひょんな時に出てきます。
ビデオテープを例にすると、映像を何回も何回も多重に複写を繰り返すと、映像はダンダンあやふやになります。画像強調処理を施すと少しはシャープになりますが、二回以上施すと画質は荒れて違った色になってしまいます。
最近は、デジタル機器が増えたので、ダビング可能回数は飛躍的に増えましたが、複写事故がゼロになった訳ではありません。
人間の脳の情報は、アナログ式かデジタル式か私は知りませんが、昨日の記憶が、
幾何級数的カーブ、つまりジェットコースターの下り曲線的な傾向で、時間とともにあっという間に
情報忘却していく事は、日々実感しています。
隣村の爺様は自信を持って主張します「私がこの目で見たのだから確かだ!」、「私がこの耳で聞いた話だから正確だ!」
私は信用しません。「体内にパーマネント・メモリーは無い。人間の脳の記憶保持能力ほど、曖昧なものは無い。爺様が記憶した時点の細胞分子と、今記憶している細胞分子とは全く別物。細胞の何世代も何世代も複写を繰り返した後の…スレカラシの断片情報…に過ぎない」と、呟きます。
隣村の爺様の記憶の、(加齢的・脳細胞減少による記憶忘却で…)情報欠如した部分は、勝手に話を創作して埋められます。面白可笑しく脚色・創作も…。だから記憶は…事実からドンドン離れて行きます。創作劇として拝聴するだけなら面白いので…茶飲み友達は増えます。
稀に、宿泊客の顔と名前を正確に記憶している、有名ホテルマンもいます。
彼は、毎晩詳細な日記(パーマネント・メモリー)に顧客の特徴と名前を記入して、
時々見ては、頭(ダイナミック・メモリー)に思い出し、再確認している…。
生来の超能力もあるのでしょうが、日常の努力も欠かせません。
凡人には無理。
おっと、人間にもパーマネント・メモリーがありました。先祖情報のDNA。
●私は患者さんに宿題(当院指示・自己矯正体操)を、毎回、出し直します。
患者さんの記憶能力の限界を知っていますから…。
●Aさんへ、当院指示宿題を忘れても嘆かないで下さい。
失念は自然科学的に当然、
忘却も自然の摂理。
●私は患者様のお顔(と本名)を記憶しません(記憶出来ません)。
町ですれ違っても「私を忘れたの?」と苛めないで下さい。恐縮。
患者様の尾骨/鎖骨の捻転方向は明確に記憶しています。
事故衝撃や脳血管異常で右脳細胞が停止した患者さんも、
リハビリで左脳に切り替えれば(記憶を再登録すれば)、
他の細胞(左脳)がある程度の機能をカバーしてくれます。
オリジナル情報でなくても充分、威張って、長生き可能です。
隣村の爺様が良い見本です。